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しゃばけ・佐仁+若だんなでまったり小話をアップしています。
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小話です。
若だんなと仁吉と屏風のぞきです。

「おや、起きてたのかい」

九つもまわった離れの襖を開けた仁吉の目に、静かな離れに不似合いなは派手な着物の屏風の妖がうつった。
その側には赤い顔をして横たわる若だんな。
もう春もそこに来ているというのに、この数日ぐっと風が冷たくなったせいか熱を出して寝込んでしまったのだ。

ぬるま湯に変わってしまった盥の水を冷たいそれに変えに行った間に、屏風の妖は己の本体である屏風から表に出て来たらしい。
眉を上げてちらりと己を見た仁吉に「ふんっ」と鼻息をだして、屏風のぞきは視線を若だんなに戻した。
「…一人にしとくには忍びないんでね」
この数日は夜も十分に寝る事が出来ない位高熱が続いた若だんなだったが、今夜は随分と楽な呼吸になっている。
水を変えにいく僅かな間ならと思い席を立ったのだが、その間にこの妖は屏風から出て来たのだろう。
皮肉屋で減らず口をたたく事にはこの辺りの妖の中でも群を抜いている奴ではあるが、仁吉や佐助とは形は異なれどどうやらこの屏風も若だんなの事を心がけているに違いない。
この長崎屋に来る前に、皮衣に『ちょっとクセが有る子なのだけど、悪い子ではないのよ』と言わせた訳がこのところ分かって来た気すらするのだ。

「付喪神が、人の事を想うだなんてねぇ。驚きだよ」
仁吉の、いや白沢の知る限りおおよそ付喪神というものは己を唯一の主とし屏風のぞき程ではないにしろ、自尊心が高いものが多い。それ故に、他の妖や己を所有者となっている人間とつるむ事は有れど人や上位の妖を己の主とする事は無いものが殆どだ。
しかしこの離れに集う者達はおおよそその理と離れている者が多いのだ。
妖故にその愛情表現も異なるし、若だんなを驚かす事も有れば困らせる事も多々有れど
、同じ妖の身から見ると、それはとても心のこもった表現なのだと見て取れる。
「この白沢でも知らぬ事があるものなのだと知らされたよ」
視線は若だんなに向けたまま、仁吉はぼそりと呟いた。
己の正体である白沢は森羅万象に通ずる神獣であるけれど、こんな事は長崎屋にそして若だんなに仕えるまではまったく知らなかったといっても過言ではない。
屏風のぞきがどんな表情でその言葉を聞いていたかは俯いたままの仁吉には伺う事は出来なかったが、決してあの皮肉めいた顔ではない事だけは分かった様な気がしていた。




「……あたしも知らなかったよ」
仁吉が残り少なくなった火鉢の炭を取りに行くと離れを出て行くのと同時に、屏風のぞきは溜息混じりにそう呟いた。
その側にはここ数日と比べて随分と穏やかな呼吸になった若だんな。
まだ屏風のぞきが若だんなの前に姿を現す事が出来なかった十数年前、若だんなに仕えるとやって来た妖はそれはそれは力有る者達だったのだ。
感情が豊かでよく笑いよく怒る佐助ー犬神ーと、それとは逆におおよそ表情やら感情やらを表に出す事が無い仁吉ー白沢ー。
人は己達の常識や概念と異なる者に、あまりにも冷たくあまりにも無情だ。
子供のなりをしているというのにそのあまりにも大人びた仁吉の姿に、屏風のぞきは長くは持たないだろうとすら思っていたのだ。

ところが、それから十数年。
妖の身ではあっという間ではあるけれど、その間に仁吉は随分と人らしくなったのだ。
佐助の様に大声で快活に笑ったりする事はあまり無いけれども、以前は己が皮肉っても聞き流しているのか聞こえてすらないのか分からない位だったのだが、今はほんの僅かなからかいにも青筋を立てて屏風のぞきを締め上げる事この上なしだ。
幾ら力が強いからと無体な事をする事は気に喰わないが、その変化は屏風のぞきにとって驚くべき変化なのだ。
「あたしこそ、驚きだよ」
妖は長い長い時を生きる。
その生まれ持った性根は変わる事は無いし、己がこうと決めた事を曲げる事は無いものだ。
しかし、白沢は変わった。
皮衣の事のみを想い、他の妖にも人にも興味も情も持つ事をなく過ごして来た白沢が、若だんなの咳一つに顔色を変え、自由な仲間の妖達に時に声を荒げ拳固を喰らわす。
それは本当に驚くべき変化なのだ。
「………白沢様も変わったんだよ」
明日には若だんなも床を上げられるだろう。
そうすれば、いつもの様に賑やかな離れが戻ってくる。
まもなく庭の桜の木も立派な花を咲かせるだろう。
こうしてまた一日、一月、一年。
穏やかで、しかし己達に僅かな変化を与える毎日がやってくるのだ。
「なぁ、そうだろ?若だんな」
今は穏やかな眠りにつく己の主に、屏風のぞきはにやりと笑いながら問いかけた。




++++++++++++++++++++
若だんなと仁吉と屏風のぞき。
なんだかんだで似た様な所があると思うんだけどなぁ……仁吉さんと屏風のぞきは。
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