しゃばけ・佐仁+若だんなでまったり小話をアップしています。
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原作4月号のネタバレを含みます。
(ネタバレという程でもないんですが…)
佐助×仁吉です。
(ネタバレという程でもないんですが…)
佐助×仁吉です。
以外にもその音色を聞いたのは初めてだった。
華やかな花見の宴も終わり、すっかりといい気分になった寛朝に連れられた寺の一室で佐助は縁側に座り月を眺める相方の背中を見ていた。
若だんなは「今日は楽しかった」と布団に入っても何度も繰り返し、やっと先程夢の中に入っていった。
その本当に嬉しそうな笑顔を見ていたら、今日は無理をしてでも花見にやって来て良かったと思う。
今日は随分と賑やかに騒いだ。身体が強く無い若だんなは、明日明後日には布団と最良の友人関係を気づく事になるだろう。
それでも。儚い人の生の中で、限られた春をあんな笑顔で過ごせたのだとしたら。今日一日の為に他の奉公人に頭を下げ花見の準備に奔走し、そして突然に侵入者で若干花見とはおもむきの異なる大騒ぎにはなったとはいえ、来て良かったのだと心の底から思うのだ。
それに。
ーあんな音を聞く事が出来たのだから。
満月に照らされたその背中は、やはり今の自分と同じ気持ちなのだろう。
顔を見なくても互いの気持ちが分かる位、自分達は近く近く側に居る。
それでも、今日、初めて知った姿が有る。
ー綺麗な三味線だった。
花見の始まりに、仁吉が奏でた三味線の音が。
仲間の妖や狐狸の舞に合わせて流れるその音が。
まるで春を告げる桜の花の様に、柔らかく柔らかくしかし凛として響き、おおよそ雅なものに興味を持たない佐助の耳にも心地よく流れ込んで来たのだ。
長く一緒にいたが、仁吉が三味線を奏でる姿は初めて見た。
それもそうだろう。
長崎屋に来た時から小僧として働き奉公人として過ごして来たのだ。優雅に三味線の稽古を受ける事など無かったし、そもそも弾けたとしても奉公人である自分達に披露する機会など皆無に等しい。
恐らく長崎屋に来るよりも以前に身につけたらしいその技能を、それ故に佐助は初めて耳にしたのだ。
「そうだったかい?」
突然、そう声を掛けられて佐助は思わず顔を上げた。
「初めてだったかねぇ、てっきり何度かお前の前でも弾いてるかと思ったんだが」
「……へ」
「いや、お前が言ったんだろう?初めて聞いたと」
そういわれて、佐助は自分が心の中で思っていた事を無意識に言葉にしていたのだと分かった。まったく自分は心に秘めておくという事が苦手な事この上ない。
「あぁ、そうだ。初めて聞いた。驚く位良い音色だ。今まで聞いた事が無かったのが勿体無いとすら思うぞ」
どうせ聞かれたならと、佐助は月明かりの中で柔らかく微笑む相方に思うままの事を言ってやった。
すると仁吉は大きく目を開いた後、少しばかり困った様に笑って言った。
「やだねぇ、あたしが弾く三味線なんて齧っただけの見よう見まねだよ」
江戸には自分よりもずっと上手に奏でる人間が沢山居るのにと、言葉を続ける。
確かに、それは佐助も知っている。
江戸にはあまたの三味線の師匠という人間が居て、その人間に教えを乞う人間が更に沢山居る事も。
長崎屋のおかみであるおたえも正月などに奉公人達の前で三味線を奏でる事が有るが、その腕は江戸でもかなり評判だと以前取引先の店主が言っていたのを聞いた事があるくらいだ。
それでも、今日仁吉が桜に添える様に奏でた三味線は、佐助が今まで聞いたどの音よりも良かったのだと思うのだ。
だからそのままの思いを仁吉に言ってやると、当の仁吉は更に大きく目を開き、そして寺の広い広い庭に視線を戻して小さな声で、そして随分とそっけのない声で言ったのだ。
「…お前があんまりにも楽しそうにしてるから、それを見てて弾いたからじゃないからかね」
「!」
今、佐助の目には仁吉の背中しか見えない。
それでも、どんな顔をしているのか想像がついて。
佐助は本来の姿であるならその尾を振りかねない程の顔で笑った。
花が、快晴の空を埋め尽くす。
狢の乱入で一時中断した花見の宴が再開して、若だんなも数多の同行者達も春の陽気以外の仕業で頬を紅く染めている。
若だんなへの給仕も一段落してふと視線を相方である佐助にやってみると、佐助はその厳つい顔をそれはそれは嬉しそうに崩していたのだ。
主と思った人を守りきれなかったのだと聞いた事が有る。
ずっと一人で生きて来たのだと聞いた事が有る。
千年、切ない気持ちを抱いて生きて来た自分とあまりにも正反対な時を生きて来た相方
は、よく笑いよく怒り感情を隠す事はしない男だが、今目の前であんなに嬉しそうに笑う顔を見た事はなかった。
(一人じゃないんだよ)
若だんなが床に臥せっている時に、北風が離れの襖を揺らす時に。
相方は拭いきれない闇に囚われている時が有る。
そんな相方が、今、あんなにも嬉しそうに。
若だんなに促され、化け合戦を繰り返す妖達に合わせて三味線を奏でながら、仁吉はずっと佐助を見ていた。
(もう、野宿などしなくても。狐達の群れに飛び込まなくても)
佐助には、若だんなが居てその周りには仲間の妖達がいて。
そして、隣には自分がいるのだから。
「明日も、明後日も、来年も」
つま弾く三味線の音に紛れる様に、仁吉は小さく小さく呟いた。
終
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原作を読んで、三味線を弾く仁吉に大変スパークしました。
華やかな花見の宴も終わり、すっかりといい気分になった寛朝に連れられた寺の一室で佐助は縁側に座り月を眺める相方の背中を見ていた。
若だんなは「今日は楽しかった」と布団に入っても何度も繰り返し、やっと先程夢の中に入っていった。
その本当に嬉しそうな笑顔を見ていたら、今日は無理をしてでも花見にやって来て良かったと思う。
今日は随分と賑やかに騒いだ。身体が強く無い若だんなは、明日明後日には布団と最良の友人関係を気づく事になるだろう。
それでも。儚い人の生の中で、限られた春をあんな笑顔で過ごせたのだとしたら。今日一日の為に他の奉公人に頭を下げ花見の準備に奔走し、そして突然に侵入者で若干花見とはおもむきの異なる大騒ぎにはなったとはいえ、来て良かったのだと心の底から思うのだ。
それに。
ーあんな音を聞く事が出来たのだから。
満月に照らされたその背中は、やはり今の自分と同じ気持ちなのだろう。
顔を見なくても互いの気持ちが分かる位、自分達は近く近く側に居る。
それでも、今日、初めて知った姿が有る。
ー綺麗な三味線だった。
花見の始まりに、仁吉が奏でた三味線の音が。
仲間の妖や狐狸の舞に合わせて流れるその音が。
まるで春を告げる桜の花の様に、柔らかく柔らかくしかし凛として響き、おおよそ雅なものに興味を持たない佐助の耳にも心地よく流れ込んで来たのだ。
長く一緒にいたが、仁吉が三味線を奏でる姿は初めて見た。
それもそうだろう。
長崎屋に来た時から小僧として働き奉公人として過ごして来たのだ。優雅に三味線の稽古を受ける事など無かったし、そもそも弾けたとしても奉公人である自分達に披露する機会など皆無に等しい。
恐らく長崎屋に来るよりも以前に身につけたらしいその技能を、それ故に佐助は初めて耳にしたのだ。
「そうだったかい?」
突然、そう声を掛けられて佐助は思わず顔を上げた。
「初めてだったかねぇ、てっきり何度かお前の前でも弾いてるかと思ったんだが」
「……へ」
「いや、お前が言ったんだろう?初めて聞いたと」
そういわれて、佐助は自分が心の中で思っていた事を無意識に言葉にしていたのだと分かった。まったく自分は心に秘めておくという事が苦手な事この上ない。
「あぁ、そうだ。初めて聞いた。驚く位良い音色だ。今まで聞いた事が無かったのが勿体無いとすら思うぞ」
どうせ聞かれたならと、佐助は月明かりの中で柔らかく微笑む相方に思うままの事を言ってやった。
すると仁吉は大きく目を開いた後、少しばかり困った様に笑って言った。
「やだねぇ、あたしが弾く三味線なんて齧っただけの見よう見まねだよ」
江戸には自分よりもずっと上手に奏でる人間が沢山居るのにと、言葉を続ける。
確かに、それは佐助も知っている。
江戸にはあまたの三味線の師匠という人間が居て、その人間に教えを乞う人間が更に沢山居る事も。
長崎屋のおかみであるおたえも正月などに奉公人達の前で三味線を奏でる事が有るが、その腕は江戸でもかなり評判だと以前取引先の店主が言っていたのを聞いた事があるくらいだ。
それでも、今日仁吉が桜に添える様に奏でた三味線は、佐助が今まで聞いたどの音よりも良かったのだと思うのだ。
だからそのままの思いを仁吉に言ってやると、当の仁吉は更に大きく目を開き、そして寺の広い広い庭に視線を戻して小さな声で、そして随分とそっけのない声で言ったのだ。
「…お前があんまりにも楽しそうにしてるから、それを見てて弾いたからじゃないからかね」
「!」
今、佐助の目には仁吉の背中しか見えない。
それでも、どんな顔をしているのか想像がついて。
佐助は本来の姿であるならその尾を振りかねない程の顔で笑った。
花が、快晴の空を埋め尽くす。
狢の乱入で一時中断した花見の宴が再開して、若だんなも数多の同行者達も春の陽気以外の仕業で頬を紅く染めている。
若だんなへの給仕も一段落してふと視線を相方である佐助にやってみると、佐助はその厳つい顔をそれはそれは嬉しそうに崩していたのだ。
主と思った人を守りきれなかったのだと聞いた事が有る。
ずっと一人で生きて来たのだと聞いた事が有る。
千年、切ない気持ちを抱いて生きて来た自分とあまりにも正反対な時を生きて来た相方
は、よく笑いよく怒り感情を隠す事はしない男だが、今目の前であんなに嬉しそうに笑う顔を見た事はなかった。
(一人じゃないんだよ)
若だんなが床に臥せっている時に、北風が離れの襖を揺らす時に。
相方は拭いきれない闇に囚われている時が有る。
そんな相方が、今、あんなにも嬉しそうに。
若だんなに促され、化け合戦を繰り返す妖達に合わせて三味線を奏でながら、仁吉はずっと佐助を見ていた。
(もう、野宿などしなくても。狐達の群れに飛び込まなくても)
佐助には、若だんなが居てその周りには仲間の妖達がいて。
そして、隣には自分がいるのだから。
「明日も、明後日も、来年も」
つま弾く三味線の音に紛れる様に、仁吉は小さく小さく呟いた。
終
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原作を読んで、三味線を弾く仁吉に大変スパークしました。
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